在宅医療とは、「訪問診療」と「往診」で成り立っている医療です。
「訪問診療」も「往診」もクリニック(診療所)から直線距離で16Km以内に住む患者さんが対象です。
この「訪問診療」と「往診」は、どちらも医師が患者の自宅を訪問して行う医療ではありますが、制度上の違いがあります。
【訪問診療】は、あらかじめ訪問予定を組んで医師が患者宅を訪問する【定期訪問】
【往診】は、患者さんの具合が悪くなった時に患者や家族の依頼を受けて、医師が患者さんの自宅を訪問するという、いわば【臨時訪問】
ふ〜ん、わかった!
ほんなら、このページはこれでジ・エンドやな。ほなな!
ちょっと待って〜!
他にもまだいっぱいあるのよ〜!
とりあえず、このページでは【訪問診療】について説明しますね。
訪問診療は、なぜ定期で訪問するのでしょう
定期訪問ってことは、体調が良くて問題ない時でも、先生が家に来るってこと?なんで?
普段の様子を知るからこそ、できる医療があるんです。
『普段』を知っているから、ちょっとした変化がわかる。
在宅医の先生が言うには、体調のよい時の状態を知っているから、ちょっと具合が悪くなった時でもわかるのだそうです。
高齢の方の場合、例えば、風邪を引いても高熱として表れないことがあります。
いつもより、ちょっとしんどそうに見える・・・もしかして、どこか具合が悪いんじゃないかな?
この「いつもより」は、「いつも」を診ているからこそわかるのだとか。
定期的に訪問して、身体や心の様子を診ているからこそ、いつもと違う状態が分かり、さらには「これは入院が必要な状態」なのか「家で治療ができる状態」なのかの判断がつくそうです。
患者さんとの会話や暮らしから、患者さんの生き方を知る。
在宅医が患者さんの体調が良い時に訪問したら、自ずと病気以外の会話をするようになります。
患者さんが若い頃はどのような仕事をしていたのかとか、趣味の話とか、病気になってどう思ったとか・・・病院では時間がなくて話せないような個人的なことを在宅医からよく聞かれるようになります。
時には、部屋に飾っている賞状や写真についても尋ねられるかもしれません。
これは決して、在宅医が暇つぶしに聞いているわけではなく(笑)、患者さんの生きてきた道のり、人生を知ろうとしているからなのです。
患者の人生なんて知ってどーするん?意味あるの?
誰もが必ず迎える「死」について、また、それまでの生き方について患者さんとご家族と一緒に考えたいからなんです。
患者さんと在宅医だけでなく、ご家族も交えて、たくさんのことを話しておくことで、患者さん自身の人生観や死生観、さらには患者さん本人が最期にどのような看護や介護を受けながら、どこで亡くなりたいと思っているのか・・・の理解を深めようとしています。
例えば食べられなくなった時のこと。
(ここから先は、たんぽぽクリニックの永井康徳先生の受け売りです)
人は病気や歳を取って、寿命が近づくと口から食べられなくなります。
食べられるだけ、食べたいものだけ口から食べて自然に楽に自宅で過ごして亡くなっていくのか、それとも点滴や胃ろう(胃に開けた穴から栄養剤を摂取する方法)を造って生きていくのか。
患者さんご本人が自分で何を選択するかを伝えられればいいのですが、もし病気が進行して伝えられない状態だったら、そんな時はどうしてもご家族は自分たちの気持ちを優先してしまうそうです。
1分1秒でも長生きしてほしい。だから胃ろうや点滴などの人工的な栄養法で命をながらえてほしいと望みます。
胃ろうや点滴による延命治療を選択した後になって、でも、これは本人が本当に望んでいることだったのだろうか・・・と悩むご家族が多いのだそうです。
しかし、ご家族も在宅医も患者さんご本人の生き方を知り、気持ちを知っていたらどうでしょう。
食べられなくなった時の選択を「ご本人なら、何を選択されると思いますか?」と在宅医がアドバイスすることでご家族が決断でき、在宅医もご家族の背中を押せるでしょう。
そして亡くなった後もご家族は「本人がやりたいようにしてあげられてよかった」と後悔なく思えるそうです。
患者さんとご家族の、そんな先のことも見通して、在宅医療では定期的に訪問して、患者さんやご家族さんを理解しようとしています。
訪問診療は、誰でもは受けられない?
訪問診療は「通院困難と医師が認めた人」でないと利用できません。
- 一人で歩けず、介助や付き添いが必要な人
- 車椅子を利用し、付き添いが必要な人
- 歩行はできれるけれど、認知機能の低下により支払いなどの事務的な対応が難しい人
上記のような状態の方は、在宅医療への切り替えを考えてみましょう。
介護保険の要介護認定を受けてなくても利用できるのん?
要介護度などは関係ありません。主治医が「この人は一人で通院は無理だな」と認めた人なら、訪問診療を受けられます。
訪問診療を始めるにあたって、在宅医療クリニックから「訪問診療に同意しました」という「同意書」に署名・捺印をしてくださいと言われます。
これは国が決めているルールです。決して怪しい書類ではありませんので、患者さんご本人かご家族が署名、捺印(三文判でOK)してくださいね。
訪問診療の頻度はどれくらい?
訪問診療は、患者さんの病状が落ち着いているなら月1回から可能です。
末期がん患者さんなど重症の患者さんの場合は毎日でも訪問してもらえます。
ただ、訪問診療には次のような原則があります。
- 1週間の訪問回数は3回(3日)まで
- 1日1回のみ(2回目の訪問が必要なら、往診対応になります)
え?週に3日だけ?
具合が悪い時は、毎日でも来て欲しいで!
大丈夫!しっかり診察が必要な重症の患者さんには、週4日以上の訪問ができる制度になっています。
いつもは月に1回や週に1回の定期訪問であっても、患者さんが体調を崩してしまい頻回な訪問診療が必要になった時(業界用語で『急性増悪時(きゅうせいぞうあくじ)』と言います)には、1ヶ月に1回14日間に限って週4日以上の訪問診療をしてもいいことになっています。
また、末期がんや筋萎縮性側索硬化症などの神経難病など、厚生労働省が定めている20の疾患に関しては、週4日以上訪問診療をしてもよいことになっています。
安定している患者さんには利用制限がありますが、具合が悪くなった時や重症の患者さんには手厚い訪問診療ができる制度になっているのです。
予定時間が変わったり、時にはキャンセルになることも
定期訪問でも、他の患者さんの都合で予定時間が変わったり、キャンセルになることもあります。
そんなん勝手にされたら、困るやん!
訪問診療の予定は、その月の訪問予定をカレンダーにして渡されたり、訪問の時に次の予定を相談されたりと在宅医療クリニックによって対応はさまざまです。
でも、どれだけ事前に訪問予定を組んでいても、訪問時間に遅れることや訪問自体がキャンセルされて延期になる場合もあります。
在宅医が勝手に予定を変えるの?患者側はちゃんと準備して待っているのに?と思われるかもしれません。
しかし、予定変更理由は、ほとんどの場合、理由は他の患者さんの対応のためです。
よその患者さんのために、うちの訪問が延期になるなんて、なんか納得いかんなあ
急に体調が悪くなった患者さんを優先してのことです。もし、あなたの家族に往診が必要になった時は、他の患者さんの訪問を延期して、あなたの家族が優先されるのですよ。
ということは、お互い様ということやな。
ほな、しゃーないな。
訪問診療の予定が変更になる時には、在宅医療クリニック側から連絡があるはずです。
在宅医の訪問に備えていろいろ準備をされていたかと思いますが、自分たちに往診が必要になった時には他の患者さんに予定を変更してもらうことになる・・・と思って、許していただければと思います。
